るるる。

兵庫県立文化芸術センターにて舞台「今度は愛妻家」、観て来ました。
この舞台については、入野自由くんが出演されることを知ったのきっかけで観に行った。

幕が開く前と閉じた後に流れていたピアノの曲の音がしばらくぐるぐるしていた。

きれいな川の水の上を、小さな、人の思いを乗せた笹船が流れて行くような物語だった。
手のひらに収まる小さなサイズ。誰にでも起こりうること、普遍的ということか。

妻の死から1年経っても立ち直れず、妻の幻覚と話しつづける北見に向かって、村井國夫氏演じるブンさんが言っていた「死だけじゃなくとも、人と人が別れることはある。会いたくても会えない人を抱えてる人はたくさんいる。会えなくても、ああどこかで幸せに暮らしてるんだろうなと思うことでやって行ける」みたいな言葉(曖昧だけれど)が、ずんと印象に残った。
もうその人はそこにはいない。でも例えば「天国で元気にしてるだろうな」と”無い”ものをちゃんと認めた上で”在る”希望をもつこと、やっぱりそう思うことで心に墓標を立て、残されたその人が強く生きて行けるきっかけになるのなら。それはとても尊い

名塚さん演じる蘭子ちゃんのキャラクターが好きでした。
蘭子とブンさんがソファで語らう二人のシーンが好きだった。細かいせりふは覚えてないけど、蘭子がブンさんと誠に妊娠したかもしれないことを伝えて、誠が出て行ったあと、自分を悪く言う蘭子をブンさんがブンさんらしく慰めるシーン。あたたかかった気がする。

最後、物語の最終章。いったんさくらとバイバイしたあと(それは北見がさくらにすがりつくのを辞め、前に進もうとしたことをあらわす)に何シーンか進んで、家を出ていく前の北見がもう一度、家のなかでさくらを呼ぶ。
でも、そこで北見は、部屋の奥から出てきたさくらに話しかけるのでなく、部屋の棚に飾ってある”生きていた頃”の写真のさくらに「いってきます」を言って部屋を出ていく。
完全吹っ切れてもう出て来ないと思っていたので、「あれっさくら、出て来ちゃうんだ。。」って最初さくらがもう一度出て来たときちょっと気持ち引いたけど、あえて、さくらを出して、目の前の幻覚のさくらに話しかけず、写真の思い出のなかのさくらに「いってきます」を話しかけることで、北見がさくらの死から立ち直り新しい日常を歩き出す方向に向かっていることを、よりつよく印象づけられるシーンだった。あれは北見が本当にさくらのことを見えなくてそういう行動を取ったのか、それとも、あえて幻覚のさくらを呼んで自分の前に出て来させた上で写真のなかのさくらに話し掛ける姿を見せることで、もう過去であることを暗に幻覚のなかのさくらに伝えたかったんだろうか。(それは自分自身で、本当のことを受け入れる儀式でもある)
あの後のさくらの最後、物語自体の一番最後のセリフ「いってらっしゃい」は、さくらがいない生活の中にこれから飛び込んで行こうとする北見への言葉だったのかな。

なんか思うのが、たぶん、誰かの死に直面したり、別れを経験してそこから立ち直れない、生きていた頃のその人の存在にすがってしまう人って、もしかして、「生きていた頃のその人にいっぱい愛を与えることができていた人」ではなく、「生きている頃にその人に何もしてやれなかった人」の方なんじゃないかって思った。たぶん、大切にしてやれなかった後悔からそうなるんだろうな。
受験やテストとかと同等で語るのはよくないかもだけど、テストでも、普段からいっぱいちゃんと勉強してやり切ったという自信を持って試験に臨む人は、仮に落ちたとしても、「でも自分はやり切ったから後悔してない」と思うのと一緒で。

それにしても、結構時系列と言うか、大分序盤から「さくらがこの世にいない」ことを、さくらの着る白い衣装でうすうす気付いてはいたのだけど、私の記憶力と集中力が足りてないせいで(3分見たら1分前のことも詳細には忘れてそうな勢い)、目の前で進行して行く物語を見ながらも「あれ、いつから亡くなった状態だったんだっけ…」と同時進行で過去をほじくり返してたらちょっと分からなくなって。
さくらが死んでからしばらく経って(恐らくあの時点で1年弱くらい)、蘭子を家に呼んだ北見が蘭子からの身体の関係を断ったシーン。あそこで、部屋に飾ってあるさくらの写真を見て質問する蘭子に「それ、俺の奥さん」みたいなことを言って、「俺、結婚してるから」と言って関係を断る。あのあと風呂を貸してほしいと言う蘭子に風呂を貸し、蘭子がシャワーへ消えて行った後「こういうのは、ほいほいやったらダメなんだ、真面目に我慢してこそ」みたいなことを言い始め急にゲスキャラになり始める北見→白服のさくらの再登場シーン。これは、どういう気持ちで北見はこの時、このゲスいような発言をしていたのだろう。この時、すでに妻が亡くなっていて、北見はきっと辛かったりしたはずでしょう? あえて浮気を匂わすことで、(死んだはずの/幻覚の)さくらの気を引いてまた出て来てもらおうとしたのか?
それとも、この発言の真意は本当で、蘭子を使って本当にさくらを忘れようとしたのか?
なんだろう、私がちゃんと覚えてないせいだと思うけど、この話は、真実を知った上でもう一度時系列を追いながら観たら、さらに味わって楽しめるんじゃないかと思った。もう一度、すべて知った上で観てみたかったな。

Wキャストで最後のアンコールに出て来られた、誠役の石井さんと蘭子役の今村さんを見て、今日のみゆくんと名塚さんが演じられてた誠像と蘭子像と結構印象ちがうなあ!とびっくりした。役者さんの見た目的にだけど。このお二人が演じられる誠と蘭子も、どんな感じだったのか気になるなあと思った。